2010年04月
毎年毎年と値下げはできるのか?
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毎年毎年と値下げはできるのか?
【経験曲線の裏側】
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こんにちは、塩梅マンです。
前回は、【いくらで買うのか?】の44回目でした。
「一律○%の価格協力要請と言うそんな楽なコストダウンがあるのか?」について考えてみました。残念ながら、化学業界ではこの方法は無力であったことを示しました。結局、当たり前のことでしょうが、原料1つずつコツコツと確実な手を積み重ねていくしかないと言うのが結論でした。
さて、今日は、【いくらで買うのか?】の45回目です。
今日の結論は、【経験曲線の裏側】です。
経験曲線と価格交渉の関係を考えてみたいと思います。
あなたが化学業界の購買の方なら、社内の営業から次のような話を聞いたことがあるのではないでしょうか?
それは、
営業先の購買部門から、毎年のように価格協力の要求を受けている。そして、その根拠として経験曲線の話を持ち出される
と言う話。
実はそれであなたの会社の営業はいつも困り果てていると言う事。
確かに、販売先が自動車・電気・電子・情報・通信・精密機器などの場合、それらの業界では経験曲線が存在するようですから、その業界内にいる購買部門の人からすれば経験曲線に応じた応分の価格協力を求めて当たり前と思われているのですね。
自社内製品にもこの経験則が作用するし、購買先である部品メーカーなどもこの経験曲線が働くから全く違和感はありませんね。
では、化学業界の中で原料の購買をしているあなたはどう感じておられますか?
と言うことで、ここはロジックとして使われている経験曲線なるものに立ち入ってみましょう。
以下、ご存知の方には釈迦に説法かも知れませんが少々お付合いくださいね。
元々、経験曲線は、航空機の組立作業における生産性の向上などの分析から、学習曲線理論と言うのが出されていたものを更に拡張・発展させたものだそうです。
発展させる過程で、数千におよぶ製品を分析して検証した結果、「結構広く適用可能だ」と結論されたようですね。
そこで、経験曲線は広く一般的な法則だと言われるようになり、経営学の中では、「規模の経済」と言う法則と合わせてコスト競争力の源泉とされているのです。
そして、累積生産量が2倍になる毎に、コストはおよそ20−30%%ずつ低下し、
製品市場に競争原理が働いている限りは、製品の販売価格もコストの低下に伴って同様の下降パターンを辿るとなっています。
では、この経験曲線はどのように活用されているのでしょうか?
その典型例は、下記のようなものです。
1)先行投資による戦略的優位性の創出と、それを武器にした低価格戦略による市場の寡占化(業界トップ企業が取る強者の戦略)
2)自社製品の将来的な価格政策への反映
3)購買価格の削減
と言うことで、化学製品の販売をしているあなたの会社の営業に声が掛かってくると言う算段です。
即ち、これらの業界で化学原料を購買している部門から化学業界である取引先に対して、原料の価格協力の要請が入ることになります。
そこで肝心なことは、
化学業界に経験曲線は存在するのだろうか?
化学原料・化学製品に経験曲線は適応可能なのだろうか?
と言うことです。
では、再度、経験曲線に立ち戻って見て見ましょう。
すると、次のようなことが分かってきます。
以下に続く)
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http://www.ip-labo.jp/category/1187975.html
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(続きです)
A)経験曲線の発生メカニズムは十分明らかにはなっていない。即ち、根拠の薄い経験則レベルのものだと言うことです。効果の程度は業界によって多少異なるとの但し書きも付いています。(こう言う但し書きは要注意です!)
B)経験曲線は、組み立て作業の生産性だけでなく労働集約的な製造業や、複雑な工程がある製造業に特に当てはまる、と言うのも注意書きです。
更に、経験曲線を具体的に活用しようとする場合には、(1)労働集約的な業種であること、(2)生産技術が大きく変化しにくい分野であること、の2つの条件を満たしていること、と言う注意書きも付いているのです。
以上のような注意点が裏側に隠れているということですね。
しかし、経営学の専門家は兎も角として、私たち一般人は、この辺りの前提条件を突き詰める機会も殆どないですから、結論だけが一人歩きしているのではないでしょうか?
即ち、「どんな業種だろうが、どんな職種だろうが、経験曲線はある」と言う普遍の原理に摩り替わってしまうのです。
正しくは、上記の結論に至る過程で検証に使われた数千に及ぶ製品が、
・一体どんなものなのか?
・どんな業界のものなのか?
・どんな共通点があるのか?
などを知らないといけないのですが・・・。
不遜ながら、私も大元を辿っていないので言う資格は乏しいのですが、上記のいくつかの注意点から洞察すると、
*2次産業以外
*製造業以外の2次産業
*労働集約型でない製造業
などへの拡張はかなり無理があると言うのが実状ではないか?と感じるのです。
では、化学原料への価格協力としての経験曲線の論理性は一体どうなっているのでしょうか?
ご承知の通り、化学業界は、殆どの場合、設備集約型です。労働集約型は少ないですね。
従って、化学業界には元々経験曲線などない方が普通ではないでしょうか?
逆に、経験を積むと共にコストが下がっていく要素が社内に殆ど見当たらないことにあなたは納得できるのではないでしょうか?
ですから、経験曲線のロジックで価格協力の要請を受けても原理的に応じようがないですね。
結局、冒頭であなたが感じた違和感の理由はこれだったのです。
毎年毎年の値下げ要求に対応できることはないのではありませんか?
同様に、化学原料を購買しているあなたが、購買先に対して経験曲線を振りかざして毎年の値下げを要請することは行なっていないのではないでしょうか?
実は、前回の記事の中で私が経験した失敗を書きましたが、その理由もこのことに根ざしていたものだったのではないか?と今振り返って反省しております。
自然科学系では検証されていないものは認められないと言う暗黙知があるから間違いが入り込む余地は殆どありませんが、人文科学系では真実は少ないでしょうから、くれぐれも注意が必要のようです。経験曲線の話もその一例ではないでしょうか?
因みに、自然科学系以外の分野の書籍や雑誌を私も時々買って読んだりするのです。
が、
【逆も真ナリ】と言うところまで検証されたものは滅多にはないし、相関関係ではなくて因果関係にまで昇華されたものが殆どないものです。(もっとも、実験そのものを自由に出来ない世界ですから原理的に検証自体が不可能と言う面も多いからかも知れませんが・・・。)
又、著者の経験の中でしか成立しないかも知れない成功例・ノウハウ・知恵・法則が殆どであると言うことも注意することかもしれませんね。タイトルに引かれて買ったけど、前提条件自体が外れていてガッカリすることも私はよく経験しています。
それは兎も角として、
化学原料には経験曲線のロジックは通用しないと言うのが結論ではないでしょうか?
そうは言っても、化学原料にもコストダウンと言うのは厳然とあります。
自社のために、価格の是正(適正価格を追い求めること)と言うコストダウンを捜し求めていく役割があなたには期待されています。
以上、今回の結論は【経験曲線の裏側】でした。
では、今日はここまで。次回は、【いくらで買うのか?】の46回目、です。
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編集後記)
あっという間に満開になった桜も、ソメイヨシノから八重桜やしだれ桜へと切り替わる時期になってきました。既にツツジも咲いてきましたし、花種がどんどん増えてきましたね。
さて、今回は、これ↓です。
黄色い花(雲南黄梅?、多分)に留まっているクモ。
風が吹けば飛ばされそうなほどに何とも細身。
エサを待ち伏せているのでしょうかね?だったら、裏側に隠れていた方がいいのではないかな?
巣を張る必要もないので「楽して何とか」と言うやつを狙っているのかも?
でも、真っ当なクモならちゃんと巣を張って、王道を生きて欲しいなあ。
人生、楽しようと思ったらロクなことはないよ!あっ、クモ生かな?
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